周りの環境や庭のあまりの素晴らしさに目を奪われて、ともすれば室内がどうなっていたか、忘れてしまいかねないほど。 今回は神戸R不動産スタッフの岩崎がお送りします。
リノベーションという言葉も今では当たり前に使われるようになりました。古いマンションを購入してリノベーションにチャレンジしようという方もいらっしゃる一方、仕事をしながら時間的な制約も多い中古物件を購入し、苦労の多いリノベーション資金の借入やプランづくりを計画するのはめんどくさいと、二の足を踏んでおられる方のお話もたまにうかがいます。
また、長期的な世の中の見通しを立てるのが難しい時代に入って、何か不測の事態が起こってもあたふたしないように、住む場所にかける費用を抑える方も増えています。
ただそうはいっても、ちょっと違うな〜と思う家に妥協して住む、というのも違いますよね。リノベーションに対する僕らのスタンスは、住む「物件次第」と考えています。そもそも物件からの景色が素晴らしければ内装にそれほどお金をかけなくても快適な暮らしができるかもしれません。部屋の中とひと続きの外の環境が良ければ、住んでしまえば内装はあまり気にならないという方もいらっしゃると思います。
だから今回は、「そのまま住んでもいいと思える物件」という選択のススメ、なんです。
見渡せば、風・水・緑といった自然環境の点において秀でた物件はたくさんあります。物件を確認に行ったにもかかわらず、素晴らし過ぎる周囲の環境に完全に目が奪われてしまって、肝心の部屋の中がどうだったかがどうにも思い出せない……といった経験もたまにあります。私が例外なのかと思いきや、お客様の中にも物件というよりむしろ環境を買った、借りたということを仰る方がずいぶんいらっしゃいます。
それからこういう仕事をしていると、人工素材が当たり前の今の時代にあって、色・形が一つ一つ違う天然素材がたっぷり使われた異国情緒あふれる建物や、周囲の自然環境に調和した内装に改修された素敵な物件にも少なからず出会います。
もっとも、そうした「そのまま住んでもいいと思える物件」を発見しても築30年や40年の物件だと購入はちょっと・・・という方もいらっしゃるかもしれません。でも、あんまり知られていませんが、意外とそんな中古物件の中にも新築住宅並みの優遇を受けられる物件もあるんです。丁寧に探せば、優良住宅の証となる「適合証明書」が取得できる物件もあり、住宅ローンで長期固定低金利の優遇を受けられることもあります。
買って自分でリノベーションし、好みのお部屋を作りたいけど躊躇している・・・賃貸だと思ったような物件になかなか出会えない・・・と悩んでおられる方に。以下にご紹介する「そのまま住んでもいいと思える物件」を選んだ方々のエピソードを参考にして、そもそも自分の場合にはリノベーションって必要なんだろうか? 自分が住まいに求めるものって何だろう? 今一度考えてみると、モヤモヤした気持ちがスッキリするかもしれません。
「空気感」で部屋を選ぶ ―芦屋市―
ここからは、実際に住んでいる方のお家のレポートです。
緑溢れる庭、海までの眺望、部屋のクラシックな造りが一体となって品のある空気感を醸し出しています。 上は、フラワーアーティストの方のお宅の写真です。もともと四国で活動されていましたが、活動の拠点を芦屋に移されて、現在はアトリエ兼住居としてご利用中です。
私がこの方をご案内していてハッとさせられたのが、その直感と想像力です。物件探しでわざわざ遠方からお越しいただいたのですが、既にこの物件1つに絞ってこられたという印象でした。
広い緑いっぱいのお庭が付いたメゾネットマンションは戸建てのような雰囲気で、テラスの付いたリビングからは海まで見渡す景色。部屋はレトロクラシックな造り。
ご案内時は広いお部屋なのにサラッと各部屋を見て回り、設備がどうとかあまり細かいところをご覧になることもなく、短時間の内見後に「イメージ通りでした」と、ポツリ。その判断の早さにこちらが「もう大丈夫ですか・・・?」とお聞きしてしまったくらいでした。
外の環境と、中のお部屋と、全体の「空気感」で判断されていて、大きなイメージがぶれなければ細かなところは後でどうにでもなると、そんな捉え方をされているようなご様子でした。
まず建物があって、そして部屋を選ぶ ―神戸市東灘区―
(左上)瀟洒なリゾートマンションのような佇まい。(右上)内にも外にも開けた建物で気分が晴れる。(下)自然素材いっぱいの室内。 こちらは、また別のお客さんのお部屋の様子の写真です。玄関からひと続きになっている仕事場兼ホビースペース。そして、そこと奥のリビングをつなぐのは、壁ではなく大きなウォークスルークロゼットという、1LDKの間取り。無垢の床材、塗装壁に、アンティーク風の扉や窓などと、雑貨屋っぽいラフな造り。
「私、このマンション自体が好きなんです」。そうおっしゃったこの方、同じマンション内で賃貸、売買を含めなんと4部屋も検討されました。
共用廊下を歩けば、グルッと取り囲んだ住棟の真ん中にある、手入れが行き届いた植栽のある中庭を望め、また建物の上には六甲山の借景がこんにちは。瀟洒なリゾートマンションのような佇まい方をしつつ、内にも外にも風景が気持ちよく開けています。
考えてみればスゴイことだな、と思います。マンションのあり方そのものが購入対象となっていると言っているようなものですから。
最終的には、モノづくりが好きなご自身の趣向にピッタリはまったこの手造り感溢れるお部屋に決められました。
部屋を買ったのか、環境を買ったのか!? ―西宮市―
住宅街とは思えない圧倒的な自然環境。 この物件は、夙川沿いの、鬱蒼とした緑に包まれた場所にあるのですが、内見に来られた際、部屋の窓を開けた途端に、川の音と野鳥の声が飛び込んで来て、それにやられてしまったそうです。
それ以前には、ずっとお勤め先の大阪市内に住んでおられました。騒音と空気の悪さは当たり前というか仕方ないという感覚になっていたところに、こんな日常がいきなり飛び込んできた瞬間の衝撃はきっと私の想像以上のものだったでしょう。
「環境が変わると心がこんなに穏やかになるものか」とご入居後におっしゃっていた言葉は、とても印象的でした。
登山客で賑わう山の麓にありながら、駅からも近いこの物件。夙川上流緑道沿いなので、車の往来も少ないです。
専用庭に面する洋室とリビングの壁は、外部の自然と調和する珪藻土仕上げ。庭の向こうにのぞく夙川緑道の森まで借景にした堀ごたつ付の和室には、それ以前に和室を避けていた買主も虜になってしまいました。さらには、庭には前の持ち主が残していったミカンの木という嬉しいオマケも。引き渡しのときにはオレンジ色に染まったミカンが大きく実り、私もおすそわけをいただいちゃいました。
穏やかで飾らない雰囲気の買主さんにピッタリ、そんな風に感じた物件でした。環境を買ったのか、家を買ったのか、それはご本人のみぞ知るところです。